COPD(chronic obstructive pulmonary disease; 慢性閉塞性肺疾患)とタバコ
COPDは日本国内で40歳以上の8.5%にあたる約530万が罹患していると推定されている疾患です。世界的にも増加しており、WHOによると2020年には虚血性心疾患、脳血管障害について死因の第三位になると予想されています。COPDの最大の危険因子は喫煙です。タバコの有毒な煙は気管支や肺胞に慢性の炎症を起こし、ひいては肺を破壊して肺の働きを低下させます。
COPDによる肺の働きの低下は、息を吐く時の気管支での空気の流れの低下(気流制限)が特徴的です。この空気の流れの低下は、呼吸機能検査(スパイロ検査)という簡単な検査を受ける事により確認できます。最大に息を吸った時点から、思い切り最大限に息を吐いた時の吐けた空気の量を努力性肺活量と言います。この時に最初の1秒間に吐けた空気の量を1秒量と言います。
1秒量を努力性肺活量で除した数値を1秒率と言い、この数値が70%未満の場合はCOPDの可能性が非常に高くなります。また呼吸機能の数値は年齢、体格、性別などにより標準値がありますので、測定した呼吸機能が何歳の呼吸機能に相当するか計算できます。これを肺年齢と呼びます。COPDでは肺年齢が低下しています。COPDの主要な症状は慢性的な咳や痰、動作時の呼吸困難などですが、これらの症状が出現した時は、すでにCOPDが相当に進行している場合が多いのが、この病気の怖いところです。すなわち初期の段階では自覚症状が乏しく、この段階で発見されずに喫煙を続けるとCOPDは静かに確実に進行して行きます。
したがって自覚症状がある方は勿論ですが、40歳以上で喫煙している方や過去に喫煙歴がある方は、自覚症状がなくてもCOPDの早期発見のために呼吸機能検査を一度受ける事をお薦めします。呼吸機能検査は専門病院でなくとも、多くの街の開業医でも行っていますので、まずはかかりつけ医に相談してみて下さい。
COPDは放置すると肺の働きが進行性に低下して最終的には慢性呼吸不全と言う状態になる場合があります。慢性呼吸不全では、空気中の酸素だけでは足りず24時間酸素吸入の治療が必要となります。またCOPDは感冒などの気道感染により急激に肺の働きが低下する事(COPDの急性増悪)が多く、この様な場合は多くは入院治療が必要となり時として致死的となります。
COPDの治療の一歩は禁煙から始まります。禁煙はCOPDによる経年的な肺の働きの低下を遅らせる唯一の方法です。禁煙しない状況では、薬物による治療を行っても肺の働きの低下にブレーキをかける事はできません。
すなわちCOPDは発症予防にも治療にも禁煙が一番重要な病気なのです。
喘息とタバコ
喘息は、気管支にアレルギーによる慢性の炎症が起こることにより、気管支が敏感な状態となり、咳やゼイゼイとした喘鳴、息苦しさ(呼吸困難)が繰り返し起こることを特徴とします。
喘息は年齢を問わず発生し、成人の3〜5%、小児の約7%に見られる頻度の多い病気です。喘息で怖いのは、重篤な発作が起きると呼吸が出来なくなり、窒息して死に至ることがあるからです。以前は喘息の発作により亡くなる方が年間で1万人を越えていました。近年の薬物療法の進歩により減少して来ているものの、現在でも年間3千人近い方が、喘息により亡くなっています。
大部分の喘息患者さんは吸入ステロイド薬を中心とした薬物療法によりコントロール可能ですが、喫煙は吸入ステロイドの効果を弱め、ひいては喘息を難治化、コントロール不良な状態にさせ、発作による入院や喘息死の危険性を高めます。喘息患者さんは、タバコを止めない限り、喘息の良好なコントロールを得る事は非常に困難です。
また受動喫煙は子供の喘息に影響を与える事が、明らかにされています。母親が喫煙者だと非喫煙者の母親の子供に対して4倍以上も喘息を発症し易くなります。子供を喘息患者にさせたくないご両親は是非、禁煙して下さい。
肺癌とタバコ
近年、肺癌は日本人の癌による死亡のトップになりました。
肺癌には、組織型により腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、小細胞癌に分類されます。すべての組織型の肺癌とも喫煙と深い関連があります。肺癌患者の約90%は現喫煙者か喫煙歴がある人です。喫煙者の肺癌発生リスクは約13倍になり、受動喫煙であっても約1.5倍になると報告されています。また女性は受動喫煙により、肺癌となるリスクが男性に比して高いことが知られています。
タバコはあらゆる肺癌の原因なり、肺癌による死亡率を著しく増加させる事は科学的に証明されている明白な事実です。肺癌になりたくない方、家族を肺癌にさせたくない方は是非、禁煙して下さい
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